ベース接地回路の基礎
ベース接地回路はミラー効果の影響が少なく、周波数特性等を改善したいときや、カスコード接続してゲインを上げるなどの味付けを行うことができる回路です。このベース接地回路を自由に使えるかどうかで設計者の実力の差が出ると言っても過言ではありません。では順に考えていきましょう。
1、ベース接地回路の特徴
1、入出力ゲインはエミッタ接地と同等
2、 入力信号に対し出力は反転しない
3、ベース端子がAC接地されるので入力インピーダンスが低い
4、ミラー効果の影響が少なく周波数特性がよい
5、クランプ回路としても用いることができる
2、ベース接地回路の基本動作
Fig.1 ベース接地の基本回路
基本回路構成をFig.1に示します。入力はトランジスタのエミッタ側です。ベース端子はトランジスタが飽和しない範囲にバイアスし、AC接地します。例えば電源電圧が5Vで出力信号が2.5V中心に振れるようにするとします。トランジスタのVCE電圧を仮に1V程度で飽和しないとすると、Vbase=2.5V(電源/2) - 1V(トランジスタのVCE電圧) + 1VF(約0.6V)=2.1VにDCバイアスすればよいことになります。また、コレクタ側には負荷を接続します。
エミッタ接地回路は、エミッタ端子が一定でベース端子の電圧を変化させエミッタ電流や、コレクタ電流を変化させましたが、ベース接地回路ではベース端子を一定にし、エミッタ端子の電位を変化させ、エミッタ電流や、コレクタ電流を変化させることにより、増幅などの動作を行います。
ゲインや、入力インピーダンス、出力インピーダンスの計算は
システムLSIのためのアナログ集積回路設計技術〈上〉
などが詳しいです。
3、ベース接地回路のDC特性
基本ベース接地回路のエミッタ入力電圧をスイープし、DC特性をみてみましょう。例えばベース電圧を2VとおいたときにVinをスイープさせ、出力が電源電圧の1/2になるDCバイアス電圧を探してみます。
(a) 回路
(b) 入力電圧対出力電圧
Fig.2 VinのDCスイープ結果
DCスイープSimの解説
ベース端子を2Vにバイアスしたので、入力電圧が2Vマイナス1VF以上の電圧が入力されたときトランジスタはオフし、出力電圧は抵抗でプルアップされたほぼ電源電圧になります。入力電圧が2Vマイナス1VFの約1.4V以下の電圧でエミッタ電流及び、コレクタ電流が流れます。
Fig.2の結果では約1.4165Vの時、Voutは約2.5Vになっています。この約1.4165Vをエミッタ側の入力DCバイアスポイントに設定すればVoutは2.5Vを中心に増幅できることになります。
AC動作Simの解説
Fig.3から分かりますように入力信号と同相で
出力信号が増幅されています。
ゲインを手計算で確認してみましょう。
V1=1.4165V、V2=2Vの時、Ic=125uA VA=100とすると
Gain = gm1×(R2//ro1)
=(125u/0.026)×[20k//(100/125u)]
=4.8m×19.5k
=93.6倍
Fig.3のSim結果では入力が1mV振幅Sim波で、出力が約93.8mVに増幅されておりほぼ計算通りです。
ゲインの計算は
システムLSIのためのアナログ集積回路設計技術〈上〉
などが詳しいです。
5、まとめ
今回はベース接地回路の基本動作について考えてみました。エミッタ接地回路にくらべ若干理解しにくいかもしれませんが、頭を柔軟にして考えるとトランジスタの性質を上手く利用した回路だと気が付くことでしょう。この回路はバイポーラトランジスタ回路のさまざまな場面で威力を発揮出来る回路構成なので、しっかり理解しておきたいところです。